言葉が足りない



言葉が足りない
息づく色をなす旅路
潤色(じゅんしょく)のため息と切なさが踊れば
僕はまるで無力
きみがいかに美しいかを
表す言葉を知らない
手持ちのジャンク品ではあまりにも
あまりにも
触れられるだけの弱さを
歓迎すれど

言葉が足りない
有限の季節が幾億も重なった
岬で遺灰を撒いてみても
碧海(へきかい)のクリムソンレーキにさえ押し戻されて
飛び下りることすらかなわない
結局はきみに回帰するようになっている
そのことの愚かしさは
どれだけ僕が言葉を尽くしても
伝わるものではないだろう
パッチワークの果てに
ランダムな千鳥格子(ちどりごうし)の先に
たまに奇跡を見ることはあれど
まるで見当違いの一文では
きみの鼓動はとらえられない
たまに奇跡を見ることはあれど

無意識と自我で転がって
哲学と倫理が飛び跳ねて
視力検査の結果が気になって
50m走のタイムに一喜一憂する
きみと有意に飛び乗って
ふたりで摂理を蹴り飛ばし
呼吸困難を歓迎する愛しさで
1500m走を完走する自己愛で
きみをとらえようとしても
網目はどうにも粗すぎて
ふっとすり抜けては微笑む
どうにかして網目を埋める言葉を
見つけたくたって

僕が探す言葉の群れが
生け()で巡るよ

夢に優雅されど狭隘(きょうあい)な欺瞞の冷
たさで黄泉路(よみじ)をたぐり寄せて
担う肩に郷社(ごうしゃ)の哀切を見て愛せ
ど再生の理に消える海豹(あざらし)は死
義捐(ぎえん)すら磊落(らいらく)の四季に携えた指
で弾く損壊の胸腺からイ短調
和紙で透かし見る来寇(らいこう)を過去で
縛り未来で湯がき現在で殺す

八千代(やちよ)の慰みも与り知らぬこと

透明な仕草/散る白詰草(しろつめくさ)
来迎(らいごう)の宿意/朦朧(もうろう)諾意(だくい)
牢記(ろうき)の品格/(ことごと)くが扞格(かんかく)
どうにかして網目を埋める言葉を
見つけたくたって
ふっとすり抜けては微笑む
並べた言詞(げんし)のバベルを
鮮やかに薙ぎ倒して
愛してみせて

言葉が足りない
きみを表すためには
歓迎しよう
抱きしめれば世界が変わる
見たこともない詩文があふれる

言葉が足りない

陽光がさえずる中で聞くピアノではなく
ライカンスロープが斜面を下る
秘め事の音波の中で
降りしきる(ひょう)を彩りにして
ふっとすり抜けては微笑む
並べた言詞のバベルを
鮮やかに薙ぎ倒して
愛なんて要らないとたおやかに吼えてから
僕の慕情ごと
(くび)り殺して
抱きしめて
言葉が足りない



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