たったそれだけのこと



なんかしっくりこねぇなって
たったそれだけのことに
どうもよくない具合に
今日も踊らされてる
なんかしっくりこねぇよって
それだけ口にしても
結局きっと
死ぬまで振り回される

なんか居ずまいが悪いよなって
たったそれだけのことに
どうも見果てぬほどの
孤独を感じてみる
なんか居ずまいが悪いよって
手を繋いでもらっても
ほら
体温が違うんだもの

たったそれだけのことに
目が(くら)んで
立ち位置も不確かだ

さりとて
絡む指を
振りはらうほどの胆力も残っておらず

これで最後のつもりで言葉を吐けよ
どうせ明日になれば
こんな昨日はがらくた
立派な遺作で
マスターピースに
何回でも何回でも
馬鹿の一つ覚えで
積み上げてしまえよ
今日、まさに僕は死に
明日の僕は(よう)として知れない
くすぶる虎の威にかかずらう
(ともしび)に消えそうな思いなら
月まで届きそうなほど
たくさん打ち棄てられているよ
月までなんて荒唐無稽でも
せめてきみのところまで届けばいいのに
これで最後のつもりで
言葉が滲むよ

たったそれだけのことを
愛なんて呼べやしないか

世界に伝わる言葉ではなくとも
きみと僕との間のスラングにはできないのだろうか

漢字にしてみれば
たった一文字
なんとか騙くらかして
本物によく似た幻想にして
決して嘘ではない紛い物にして
手を繋ぐことに
今以上の意味を見いだせないだろうか

温度差が温度差のままでは悲しいよ
温度を分かち合うことが最善とは言わないけれど
なんとか騙くらかして
せめて
涙を零さずに手を繋いでいたい
きみとは別の生き物なんだと思い知れば
詩情はあふれてしまうから
ごまかして
溶け合って
嘘を吐いて
僕らはお互いに騙されよう

これで最後のつもりで言葉を吐けよ
なんかしっくりこねぇのが
紛れもない現実で
握る手は温かく
僕は熱を奪ってばかりだ
せめて還元しようと思えば
明日に死ぬ言葉が踊る
なんかかっこよくはねぇけど
ももんがのまばたきのような
瞬間の本能でやっつけて
居ずまいの悪さを気にしながら
ボタンを押すよ

滑稽なマスターピースです
自分が愚かで
浅薄(せんぱく)
届かなくて
無力
欺瞞(ぎまん)に満ちて
詐欺師
未熟
ただの不出来な人間であると
思い知るだけのマスターピース
これが最後の作品で
これが僕の集大成です
よくよく読んでみれば
何もたいしたことのない
言葉の羅列を押しつけて
今日を死ぬよ

なんかしっくりこねぇなって
きみへ思いを馳せながら
考えるよ
間違いなくきみは運命の人
きみと手を繋ぎ
居ずまいの悪さを覚えて
まったくこれは背理(はいり)だと思いながら
ふと起き上がり
昨日書いた文章を千切り捨てる
傑作の作り方はわからないが
燃える(ごみ)の増やし方ならわかるよ

きみの淹れてくれたカフェオレを飲んで
舌の傷を弄ぶ
これを運命だなんて呼んでいたらきりがない
日常のずれを正すことなく
カフェオレを飲み干して
今日を
きみと生きて
今日に
きみと死ぬ

言葉の羅列はマスターピース
遺作ばかり列なる25メートルを
きみが泳ぐ
そっちは明日
ビート板はどこだったっけな
こんなに無様(ぶざま)な言葉ばかり
泳げないよ



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