痛みを知ってよ



痛みを知ってよ
悲しみを知ってよ

不幸を背負えとは言わない
(ただ)れた疵痕(きずあと)を見ろとも言わないよ

ただ知ってよ
そこにあることを知ってよ
どこかじゃなくて
すぐ近くにあることを知ってよ

嘆きがあることを知ってよ
絶望があることを知ってよ

叶わないことがあることを知ってよ
敵わないこともあることを知ってよ
逃げられないことがあると知ってよ
避けられないこともあると知ってよ

戦うこともできずに
朽ちていく誰かがいることを知ってよ

愛だけじゃ何も為せない瞬間があることを
盲目だと理解されず歩かされる悲劇があることを
金にこそ救われる誰かがいることを
足のない者が戦争に駆り出される喜劇があることを

知ってよ


かっこ悪いとか言わないでよ
ここは戦場だから
いいも悪いもないのに
武器も持ってないのに

銃口を突きつけられているのを見てなお
あなたは言うのだろうか
戦え、と

どうせ死ぬのなら?
そんな前提で?

さらに疵を増やせというのだろうか
どうせ死ぬのに?

わかってとは言わないよ


ああ、どういうことだろう
僕たち
3年くらい前までは楽しくやっていたはずなのに
満ちる不幸の中で(さかずき)を交わしながら
仲良くやっていたはずなのにさ

僕たちの楽しみは今じゃすっかり(すた)れてしまって
流行らなくなって
みんなバラバラで

あれだけ分け合って(いつく)しんでいた流血も
すぐに渇くようになって
なんだか喉がからからだ
湿った鮮血がもしあっても受け取ってくれる相手がいない

それが残映でしかないとわかっていても
帰ってきてほしいと言ってしまうよ

さしのばされる手なんていらないよ

ねえ、帰ってきてよ



気づかないかな?
すぐそばで誰かが泣いてるよ
案外近くにいるよ

ほら、今
隣を通り過ぎたよ



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