滑り落ちる流線型のアルト



なめらかとは言えず
見苦しく滑り落ちていくのは
(よい)に惑う流線型のアルト
鮮やかな高音とは言えない
耳障りだが甘い声
世の中に対して
怒りをぶちまけてる
まったくそれは
あの時の僕のコピーキャットだよ
そして
僕も誰かのコピーだったよ

《僕がどれだけのエネルギーを今なお持っているかを、ただ実験的に立証したかっただけであり、これは何の価値もないし意味をなさない。それでも何かとやかく言うならば、これはただ、逆襲であり、吐瀉物(としゃぶつ)だ。冷たい夜空を見上げるように、僕は何も求めない。》
流線型のアルト
ソロであり混声合唱
どこかで聞こえているはずの
響いているはずの
誰かの叫びと
合わせて
歌おう
美しき規範のもとに
厳然たる摂理の中で
不自由を(かて)にして
高らかに

《彼らはきっとそこでならと夢を見て(あるいは見ないかもしれない)、そして結局そこでも、大半は暮らせやしないだろう。そしてまた考える。僕らにあった理想郷はないものか。誰か他の人間がいて、そこに存在する限り、僕らの野望は永遠に叶わない。それでも、妙にお膳立てて、きれい事をさも当然のように言う(やから)とは、友人になれそうにないし、僕はそれよりはずっと、理想郷を夢見る側だってことは知ってる。それが望むべくもないことなのも知っている。けれど、理解はしていないかもしれない。

陽の光より、月の反射に心惹かれ、青空を憎々しく思い、夜空に安心する。僕はただのひねくれ者かもしれないし、何かを恨んでいるのかもしれない。不幸を気取るつもりはない。でも時としてその不幸が、"売り物"になることを知っている。

出口がない哲学の出来損ないをまくし立てて、それで幸福感を得られるのなら。》

僕らのアルト
歌っておくれ
ささやかな生きる理由を
世界への反抗を

自分本位であることが自由の条件ならば
滑り落ちる流線型は
どこまでも美しいそれを掲げる
アルト
聞こえない他のパートに合わせて
本当はどこにもいないきみの仲間たちとともに
歌っておくれよ

悲劇の価値を
痛みの意義を
昏迷の正しさを
ぼくらの傷痕には崇高な意味があり
紛い物ではなく
叫ぶほどに美しくいられると
アルト
どこにもいない
きみの
仲間たちとともに

ソプラノ
舞う花びらと
テナー
呼吸の心音
バス
猫が通り過ぎたよ

歌っておくれよ
傷ついた僕たちこそが
この世界の証人であり
正しい生存者なのだと

明日には忘れるメロディでいいんだ
今日だけを生き延びられたら

歌っておくれよ

《僕は止めない。それを責めもしない。祈るだけだ。あなたが幸福でいられますように。でも僕からのそんな祈りなんて迷惑なだけかもしれない。なぜなら僕は、神様の信望者ではなく、僕の国の信望者なのだから。結局エゴでパーソナルな価値観しか僕は認めないのだから。》

反逆の狼煙(のろし)なんていらない
どうせ負けは見えてる
レクイエムもいらないよ
どうせたいした生じゃない
ただ今日を生き延びるためだけに
滑り落ちながら
甘い耳障りな歌声で
歌ってみせて
この世界の不完全さを
不条理を
言ったってどうしようもないことを
アルト
耳障りな歌声で
灯火(ともしび)が尽きる前までに
(うた)を超えて
あるがままに
僕たちの救いがたい過ちを

アルトは
静かに滑っていく
そっちには何もないけど
後ろには矩形(くけい)のトライアングルがひかえている
コピーキャットになるために

アルト
たったひとりの混声合唱で
歌ってみせて
この世界の不完全さを
不条理を
言ったってどうしようもないことを
繰り返されてきた僕らの驕慢(きょうまん)さを
正当性を求める愚かさを
繰り返される連鎖の
救いがたい過ちを
詩を超えて
あるがままに
耳障りな歌声で
灯火が尽きる前までに
後ろには矩形のトライアングルがひかえている
コピーキャットになるために
ささやかな反逆の音色は
また再び
まだ終わらず
繰り返し
紡がれるんだろう

詩を超えて
あるがままに
僕たちの救いがたい過ちを
歌ってよ
響かせて
ちょっとしたオペラにでもなれば
上々の出来



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