ひとり |
ああ、ひとりだなって 脳の右斜め後ろの左側のちょっと奥で気づく それは泣き喚くほど深い孤独ではないし 右も左も上下も失うほどの行き詰まりでもないのだけれど これはひとり以外の何ものでもないなって 脳の左斜め後ろの右側のちょっと手前が宣言する それは疑いようがない そりゃあメールをする相手くらいいる 全く誰とも交流がないわけでもない ただ肝心なところとしては 戦いに赴くパーティが自分ひとりだけってことだ 攻撃も防御も魔法も全部ひとりでやって大忙しで 結局のところ全て満足にできない 息も絶え絶えで敵を倒したって ゴールにはほど遠い あと何回大忙しを繰り返せば報われるのか 僕は取り引きをする 大忙しにはいささか疲れた 相手が必殺技を使わない代わりに こちらが倒してもゴールドは奪いません なんて持ちかけてみたりして 相手が回復魔法を使わない代わりに こちらが倒しても経験値はいりません なんてのも付け加えて 僕の戦いはいくぶんラクになる けれどそもそも何のために戦っていたのだったか ゴールドも経験値も放棄して ただ戦うために戦っていたのか? それなら街で武器屋でもやっていればいいんじゃないのか けれど僕は取り引きをしてしまい いくぶんラクになった戦いをつづけ ゴールドが貯まらなければレベルも上がらない ねえいささか疲れたよ 世界を平和にするまで終わらないのか? そのまま突き進んだ大海でマグロと競走しなきゃならないのか その勝利の先に安寧があるとしても 他にどんな保証があるってんだ ああ、ひとりだなって オルタナティブを聞きながら思う 悲観して死を覚悟するほどの重みではないにせよ カテゴライズするなら間違いなくひとり つまんねえ見栄なんて捨てて懇願するにしたって スコットとロレンスしか周りにいなくて ああ結局、金で解決してその場しのぎするしかないのね ってもさあ どんだけ倒してもゴールドは奪わない取り引きだから せめて約束ぐらいは守らないとさあ 何がいけねえんだって 今までずっと ひとりよがりな信頼を押しつけてきたこと 十数年ずっと懲りずに続けてれば 家が建つくらいの立派な悪業になっているだろう 因果応報なんて 信じてるクチじゃないけど どうしようもないくらいの現実で ひとり 僕は僕の理想像を信じていたかったのでしょう そんなものどこにもないと知りそめたのでしよう ちょっと遅かったかもしれない まだ間に合うのかもしれない まず僕が懇願する相手はどこかにいる“誰か”ではなく 残念ながら敵の魔物たちだ どうにか仲間を連れてくるから あの時の取り引きはどうか忘れてもらって そっちも全力でかかってきていいから こっちが勝ったらゴールドも経験値もくださいって 何も全部くれと贅沢なことはこの際言わない 8割ほどもらえれば御の字だって 僕の心が心地よくざわめく深夜まではまだいくらかある カフェオレを飲んで ひとり あの子にメールを送ってみる 宛先が存在しないと エラーメッセージが返ってくる 最初から知ってたよ ひとり |