マーキー



マーキーは熊のぬいぐるみなんだ
毎夜毎晩だきしめて眠ると心地いいのさ
頭がちょっとやぶけて中の綿がすこしばかり飛び出してるおちゃめなマーキー

ねえマーキー
やることがないよ

ねえマーキー
鬱さ

ねえマーキー
生きるのがつらいよ

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あいつらは言うよ。
「これが正義です」「これが健康です」「これが一般的です」「これが…」
マジョリティという独裁のもとに。
けれど、それをどうこう咎める気は最初からない。
持ちうる強さを捨てろって言われて捨てる馬鹿はいない。
いたとしても長生きはできない。
僕は言うのだろうか。
「間違ってください」
「体を害してください」
「ひねくれてください」
「弱くなってください」
「長生きしないでください」
「道半ばで死んでください」
僕はそんなこと言いたくないけれど、
言外に言ってはいなかっただろうか?
マーキー、教えてくれないか。
ねえ、マーキー。

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煙草を吸うためにベランダに出た。
近くの茶畑の上で扇風機が回っている。
あれは何のためにあるのかと、お茶屋の跡継ぎに尋ねたら、
寒い時に、上の暖かい空気を地面に送るためだという。
なるほどそいつはいい。
そんなふうに上の暖かい空気が流れてくるなら。
なるほどそれはよくない。
僕はつまりこう言っている。
「上のやつらは凍えろ」とね。
茶畑の制空権は茶屋のもの。
いくら空気を送り込んでも咎められない。
僕たちの制空権は誰のもの?

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ねえマーキー。
ねえマーキー。
聞いてくれよ。
たぶん、
僕は、
今、
切実に、
生きたいと願ってる。

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ねえマーキー
おちゃめに綿が少しはみでてるマーキー
熊のぬいぐるみマーキー

まったくきみときたら
おちゃめだし綿ははみでてるし愚痴も聞いてくれるし非のうちどころがないよ
最高さ

ねえマーキー
おやすみなさい

ねえマーキー
うっかり死んでしまいそうになるよ

ねえマーキー
僕ときたら
本当の不幸を知らず
中途半端な傷を抱えて
上にも下にも行けない無気力と優柔不断
どれだけ失敗したか知れないけれど
なぜか今
切実に生きたいと思ってる
どうしたのかな
不幸でいるのに飽きたのかな
でも
気持ちひとつで制空権は得られなくて
結局まだ
マーキー
聞いてる?
寝ちゃったのかい?

僕は何もかもわからないんだ
正しさってものがそもそも要るのかどうかさえ

ねえマーキー
生きたいけどつらいよ

ねえマーキー
うっかり死んじゃいそうだよ



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