がらくたキャッスル



がらくたを寄せ集めかき集め築き上げられた城の最上階で
僕は夢を見てる
地球の中心で繰り広げられる華やかな華やかすぎるパレードの夢を
思い描いてる

降りそそいで僕を癒やして潰して救って壊してきたものを
全て良しとして
積み上げて成り立ったがらくたの城の最深部で
僕は夢を見てる
月の裏側で行進する百鬼夜行の千鬼夜行の万鬼夜行の億鬼夜行の夢を
思い描いてる
頭が痛い
割れることはないだろうけど
たぶんひびか入ってんだろうなってくらいには痛いよ
がらくたの城の玉座の上で
悶絶ってほどではないけど顔をゆがめてる
誰も来ない
夢を見てるよ
勇者が来て世界を救いますって宣言する夢を
誰も来ない
そもそも
がらくたの城なものだから
城門なんてこしらえる材料がなかったよ
裏手に出入り口としてささやかな穴を開けといた
どれくらい貧相かって
兎しか通れないくらいだよ
誰も来ない
僕は外に出れない

がらくたの城は生きていて
勝手に配置をごちゃごちゃさせる
昨日はここに寝室があったのに
執務室になってやがる
もう薬は飲んでしまって
ゆるやかに僕の意識は落ちていき
パレードと夜行の幻想に近づいていく
つまるところ
そのへんで雑魚寝だ
頭が痛いし
胃が弱ってる
うまく咀嚼(そしゃく)できないことばかりで
胃腸に負担をかけっぱなしで
食欲はすっかりなくして
なんとかアイスなら食べられるんだけどなあ
冷蔵庫はないや
残骸はあるけど
そもそも電気が通ってないや
からのペットボトルは並んでるけど
ドミノみたいにさ
いっそのこと
そのへんでこんがらがってる凧糸(たこいと)を解きほぐして思い切り引っぱったら
嘘みたいに崩れ落ちたりしねえかなあ
僕はぺしゃんこになっちゃうね
でもね
がらくたの城ががらくたの山に進化するんです

記憶を(とも)
めったなことじゃ手が震えない時もあったのです
燭台の代わりにして灯す
名刺ひとつまともに渡せない不能者
それを詩人だとでも思っているのだろうか
解せない迷路のロジックは
あまりにも入り組んでるばっかりに
哀れにも思えない勘違いを引き起こす

結局僕は城の最奥部で塵屑(ごみくず)の上に寝転がって
だってここで寝ていたら
狭いからさ
この部屋の何にだって手が届くんだ
ものぐさな僕にはちょうどいいよね
この部屋から
君の手に手が届いたらよかったのにね
絢爛(けんらん)なパレードに巡り会えればよかったのにね
奇怪な兆鬼夜行に加われればよかったのにね
でも
幸せだった日々の思い出には手が届くよ
夢は見ないよ
あの日々をもう一度なんて夢は見ないよ
そこまで愚かじゃないよ
手を伸ばせばそこには哲学書だってある
ページをどれだけ()っても意味はちんぷんかんぷんなんだけどさ

僕は全て納得ずくでこの城に住んでいるのに
みんな信じてくれないんだ
お前そんなわけないだろって
こんなところにいたら肺にかびが生えるどころか
脳に虫が湧くぞ
って
ごめんもう住んでるよ
でもけっこう
これがどうして仲良くやってるんだ
肺のかびはあるかもしれないけど
でもだって
最奥部の部屋なんか
手を伸ばせば夢にも愛にも希望にも手が届くんだよ
それだけは
揺らがない
このがらくたの城の真実なんだよ
兎すら来ないけど
全て納得ずくで灰燼(かいじん)の上に寝転がってる
素敵なカーペット
もともとは夢で愛で希望だったものたち
誤解しないでほしい
最奥部の部屋じゃなくたって
そこの執務室でも少しがんばれば夢にも愛にも希望にも
慕情にも嫉妬にも願いにも
祈りにも賛歌にも
言霊(ことだま)にも
手が届くよ
そしてそれは灰なんかじゃない
もう全然使える現役もののがらくたで
ちょっとかびは生えてるけど
高級品だし
少々のことでは揺らがないよ
揺らがすことなんてできないよ
高い買い物だった
降りそそいできた時
左腕をひとつ持ってかれた
高級品だからね
城下からほどなくの商店街にある店では
105円で買えるらしいけど
こっちは高級品が0円だったんだ
どう考えても圧勝だろう
ちょっとかびが生えてても
少しプラグの接触が悪くても
買い直すことはできないけど
だってもう降ってこないからね
それに
右腕まで手放すのはどうかなと
何にもどこにも手が伸ばせなくなる
今だってひとつのものにしか届かないのに
喜びなら喜びと
悲しみなら悲しみと
ひとつだけだ
喜びから得た希望は
悲しみに繋げることができなくて
悲しみを悲しみとして過ごし
悲しみから得た教訓は
喜びまで持ってけない
少々はめを外すことになる
ああ
だから今
ひびが入って頭が割れない程度に痛いのかな
記憶が時々不確かで勝手につぎはぎしてしてまう
でも
このがらくたの城では正確な記憶なんていらねえんだって
手を伸ばせば届くんだからさ
山のように積み上がる様々なものに
偽物の記憶かな
君との幸せな日々に手が触れたような気がした
とたんに
山と積まれたがらくたが崩れ落ちた
君との日々はどこにいったかわからなくなった
そして
僕はさっき触れたものが何であったか
するっと忘れる
曲芸みたいに
軽やかに
つぎはぎして
肝要な部分が
パッチワークですら再利用できないような
切れ端に変わって
そんでもっていつのまにか虫が食べている
軽業(かるわざ)みたいに
空中ブランコで3回転するくらいの傲慢さで
ああどうしたっけ
こんな猥雑な部屋では
玉乗りのひとつもできないってことは
しっかり覚えてる

思い出を曖昧につぎはぎしてしまってから
燭台の代わりに記憶を灯す
そして願う
祈る
地殻のずっとずっと下の地球の中心で色めくパレードと
陽の当たらない月の裏側で脈々と続く夜行を思い描きながら
願う
どうかこのがらくたに包まれた城から
ずっと一生いつまでも出ることがかないませんように
何の不満もないのです
ここには安堵ばかりがあるのです
けれどいつかポンコツのエアコンもついに壊れる時が来て
夏と冬にとんでもなくぶっ殺されるんだろう
それでもなお
それすら
がらくたを守り抜いた結果として
僕は僕に表彰されるのだろう
勲章をひとつもらって
つまりは
がらくたがひとつ増える

ねむいなあ
ねむいなあ
今夜はどこでねようか
最奥部はどこだかわからなくなり
執務室はすっかり遠く
玉座は地下に潜って
最上階に続く階段はふさがれて
パッチワークの記憶のせいで
ここがどこなのかわからず
でもそれって正解で
このがらくたの城に
どこかである場所なんてないものね
ここでねようよ
ちょっとがんばって手を伸ばせば届くよ
パレードの夢を見れるよ
夜行の顛末(てんまつ)が知れるかもしれない
君がいなくなった理由も
そしてつぎはぎのパッチワークがそれらを繋ぎ合わせて
パレードに参加したきみが夜行にさらわれていなくなったという顛末が残る
そろそろねましょうか

ねえ
だって
すてられない
ごみくずだなんて
ほんとうのところ
おもえないよ
こんなこんなぼくに
ふりそそいだんだよ
それだけでとってもありえないことで
なんですてることなんてできようか
せいりして
ぶんるいすることすらもふかのう
ってぐらいだいじで
だいじでかかえて
だいじでつみあげて
どうして
それいがいにできたというの
こんなこんなぼくに
ふりそそいだんだよ

かなしみなんかじゃないです
あわれみの必要はどこにもありません
くるしみではないのです
なさけなど求めてはいません
がらくたの城は僕の城
勇者にも魔物にも奪われることのない
安住の地
でもねえ
寝室にはもうしばらく行けない気がするな
というか
もう行けない気がするよ
だんだんと
行ける部屋が減ってる

最上階になんとか出れば
夜空が見えるから
もし出られたその時は
またなんか降ってこねえかなって
見上げてみるよ
もうちょっと建て増ししとかないと
入れないところばかり増えていくものだから

こんなぼくにふりそそいだのです

かなしみではありません

こんなぼくにふりそそいだのです

にくしみなどもってはいません

すべてつみあげることが

ゆいいつのただしさであったのだと

いつでもいつまでもしんじています

がらくたの城から
行ける部屋がひとつもなくなって
もう城じゃなくて
がらくたの山になったとしても
僕はその胎内で
安らぎにまみれて眠ることができます
手を伸ばさなくたって
全部の全部に触れています
ああ
右腕もいらねえなあ
夢と愛と希望が
降ってくればいいなあ

そういえば
鍵がひとつあったな
このがらくたの城にまるで似つかわしくない
まっさらで新品でぴかぴかの鍵が
君が置いていったのだろうか
君とは誰だったのだろうか
何を開ける鍵だったっけな
でもそんなこと最終的にはどうだっていいよね
ただ耳に触れる程度に気になってるだけ
いつしか僕はこの城が崩れた後に
がらくたの山の胎内で
全てに触れて眠るのだから
ああ
そしたら
待てるんだなって
全てに触れてる今なら
夢と愛と希望とが降ってこないかなって
待てるんだな
鍵の記憶なんてつぎはぎしてなくしちゃえばいい
だって耳に触れたら気になるんだし
ゆめかな
みれるかな
がらくたの
胎内で
パレードと夜行に混ざって
鍵なんて忘れて
どこまでも
思いは馳せる
がらくたから
北極星まで届くよって言いたいけど
どうせ
どこかの似たようながらくたに届くのが関の山
むしろそれが
御の字だ

なにもかなしくないのです
あたたかながらくたにかこまれて
ぼくはすでにして
ゆめをえがいているのです
パレード
夜行
そしてがらくたのやまの
だって
ふってくる
のを
まてる
そりゃあね
もうとんとなにもふらないけれどね
ちょっとつみあげすぎたんだろうな
エベレストってほどじゃないにせよ
ちょっとつみあげすぎたんだろうな
なにもふってこない
それでも
ちかしいみらい
ぼくはまてる
まつことができる
なにかまっさらでぴかぴかでしんぴんのものがあったようなきがして
みみにふれるかんしょくがふかいで
パッチワークして
あまらせる
がらくたがまたひとつふえる
もう
それがなんだったのか
わからなくなる



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