行き着けよ



なにがどれだけ軽薄になったっていいと
新規開拓は後回しにしたって
オレは今
迷子になってる暇はない
そうだから
自分のことをオレと呼んだって
詩文のことがおろそかになったって
似合わない速球ストレート
シンカーが持ち味だったのに
打ち取れないかもしれない速球ストレート
たぶん139キロくらいしか出ないだろうストレート
でも
まかり間違ったら159キロになるかもしれない直球
似合わないねって言われても
これだってオレなんだよって
開き直って
監督の指示も捕手のサインも無視してぶち込む直球
その結果が直撃ホームランだっていい
そんな傲慢なストレート
中途半端に145キロでショートフライ
結果的にそうなりゃ十分だろう
後で締め上げられるかもしれないけど

現代詩なんて(おごそ)かなものは似合わねえんだって
正直オレがオレにそんなもの求めてないんだって
現代ポエムでいいからって
というかそれがそれこそがオレが望むものなんだって
卑下(ひげ)でもなく(おご)りでもなかったはずだ
それは紛れもなくオレの直球だったはずだ
届くだろ
それにしたって
バットかキャッチャーミットかしらねえけど
暴投にだけ気をつけりゃ届くだろ
行き着くだろ
オレの言葉はどこかに行き着くだろ
いいや暴投だってかまいやしない
バッターボックスの裏の金網にだって行き着くだろ

メロディに流れる言葉にうっかり涙腺(るいせん)を刺激される
なんてこったって
なんてこった!
こんな剛速球を
メロディに乗せて届けられた日には
音階を持たないしがないポエムメーカーが勝てる日は
1兆光年くらい先だろう
って
負け犬の遠吠え
でもオレが負け犬のまま(つづ)ったメロディラインのない言葉が
誰かにうっかり届いて
軽く涙腺を刺激したら
それはそれでとんでもねえだろ
って
勝利宣言
勝ち負けなんて結局どうでもいいだろ
そこにメロディがあって
ここにレトリックもどきがある
ただそれだけのこと
オレはリズムを持てぬまま放ろう
っていうかレトリックだって結局いらねえよ
なんもかんもいらねえよ
作品っていう体裁すら余分だよ
行き着くだろ!
オレがオレのまんまで
そっちがそっちのまんまで
それが嘲笑われる結果になろうとも
理解できねえって吐き捨てられても
不快を与えたことを背負わされても
行き着くだろ!
直球がうっかりカットボールになって
宣言したわりにかっこ悪くても
今さらのここにきてちょっと曲げることも(いと)わねえよ
大事なのは結局そこでもなんでもなくて
全部全部体裁なんて捨てろと言い聞かせて
なりふりかまってらんねえよって何度も何度も呟いて
誰がなんて考えてるかなんてわかんねえよ
否定したいわけじゃない
好きにすればいい
そういう直球だってあればいい
だけど
オレはオレのことを肯定したい
今は
明日には自己嫌悪でうめいているとしても
ただひたすらに体裁を捨てろ!
全部の全部
外殻なんてはじき飛ばせ
どんな装飾も形式もいらねえよ
五線譜から音符をはじき出してぶち込んで
エフェクターなんて外して
アンプも通さねえ
ここが誰もいない小さな小さな薄汚れたハコでも
行き着くだろ!
それだけが確かなことだろ!
他の何に価値があるってんだ!

忘れろよ
今は忘れてしまえ
綺麗な詩を書きたかったことも
優しい言葉を連ねたかったことも
忘れろ!
憂鬱を彩りにしたかったことも
もうすんげえ作品を創りたかったことも
全部忘れろ!
投げろ
ぶち込め
全部何もかも忘れて
現代ポエムですらなくなって
傲慢で
不遜で
醜い
自己愛
この叫びが何の言い訳になったっていい
この祈りがどんな不快を誘っても今はかまわない
この暴言で誰かが離れて行ったとしても
ごめんよ
でも
投げたい
直球で
行き着けと
ただ祈りたい
嘲笑われてもいいという驕慢(きょうまん)
罵られてもいいという暴慢
それがどんなに罪と言われても
ごめんよ
償う気なんてさらさらねえんだよ
直球ぶん投げて
観客を落胆させて監督に怒られてチームメイトを失望させても
ごめんよ
償う気なんてさらさらねえんだよ
オレがオレであればいいと言う悪意
こんなん商売にならねえよ
わかるだけわかってんだよ
なりふりかまってらんねえよ
ぶち込め
一発で弦が切れる全力の不協和音で
祈りをぶちかましてやって
行き着けよ!

オレはただオレを肯定したい
それでみんなを巻き込んでしまうけど
なりふりかまってらんねえよ
半死人にそんな余裕があってたまるものか
これが今の真実だ
騙す気なんてない
誤魔化(ごまか)す気もない
ごめんよ
何の誠意もない謝罪だけど
ごめんよ
これで罪を背負ったとしても
償う気なんてさらさらねえんだよ
オレはただオレを肯定したい
明日には死にたいって声を絞っていても
今はただひたすらにオレを肯定していたい
ただひたすらに祈ってる
醜い自己愛のために
行き着けと
なりふりかまってらんねえんだよ
半死人に体裁繕ってる余裕はねえんだよ
ただの開き直りと罵られても
それが正義だとは思わないが
真実には違いないと信じてる
行き着け!
オレは明日も生きていたいんだ!
明日には絶望に24時間うなされることになっても
オレは生きていたいんだ!
そっちはそっちでうまくやってくれ
誰かの悲鳴がここにオレにオレの核に辿り着くことを
待っていたいんだよ
笑わねえよ
罵らねえよ
信じてんだよ
それがオレと同様に
あるいはもっと醜悪な自己愛だったって
丁寧にラッピングされた
優しい愛の言霊(ことだま)だったとしても
全部等しく受け止めていたいんだよ
弦を切ったか
丁寧に脂をぬぐったかなんてどっちでもよくて
行き着けよ!
明日を生きてるオレのもとに行き着けよ!
笑わない
罵らない
罪も押しつけない
謝罪は要らない
償いも要らない
感謝なんて求めないでほしい
感動なんて望まないでほしい
信じてんだよ
ただそれだけが真実だって祈っていたいんだよ
半死人にどんなに余裕がなかろうと
なりふりかまわずに
オレは明日も明後日も生きていたいんだよ
愚行の果てのオレの人生に
その近未来に
ろくなもんはねえだろう
自己嫌悪と過去のつけと懊悩(おうのう)と自己愛が転がってるだけ
行き着け!
それでもオレは明日を生きていたいんだ!
待っていたいんだよ
辿り着けよ
頼むから
辿り着いてくれよ
行き着けよ!
明日を生きてるオレのもとに行き着けよ!

愚行を重ねた果ての惰弱(だじゃく)な生に
どんな正義も美しさもねえけど
ただオレはオレを肯定したい
明日を生きていたい
待っていたい
オレに行き着くものを待っていたい
半死人でもがきながら妄執だけで生きてる(やから)がここにいるんだよ
ただそれだけの
醜い自己愛でも
待っていたいよ
だからそう
そっちはそっちで
うまくやってくれよ
生きていてくれよ



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