暗紫色(あんししょく)六連星(むつらぼし)曙光(しょこう)



つるると言葉を並べてみるのだけれど
それはどこかで見たことのあるやつで
他ならぬ自分の書いた物で
ああこれは違うなって思うんだ
だってあの頃あの子に抱いていた気持ちは
今現在きみに抱いている気持ちとは
全然別物だと思うから
もしかしたらそれは日本語としては
「恋」とか「愛」とかでまとめられてしまうけど
詩人の言語まで
それに(なら)わなきゃならない理由はない
どっちにせよ
200字書かないとはじかれるんだし

模索として
例えばそこに比較があり
あの子はあの時、どっかに隠れちゃったばかりだった
きみは元気にしているとは言えないけれど、たぶんまだ息をしてる
なのだけれど
今ここに僕の隣に物理的にいないのは同じで
きみは呼べばここに来てくれるかもしれない
あの子へ届く電波はどこにもない
今ここに僕の隣に物理的にいないのは同じで
なんにせよちょっと少しだけもの悲しさは混ざるね
寂しがり
しゅるると言葉をまとめてみるとして
こんなささいな気持ち
どんな言葉にも満たないよ
結局迷子みたいになっちゃって
詩人の言葉すらうまく扱えなくて
現代的な日本語で
恋してる愛してるでもちょっと寂しいって
むしろそれはそれで正解で
詩人の言葉がちょっとさぼっているから
チョークでコツコツやらないといけない

つるる
暗紫色の酩酊(めいてい)
六連星の残滓(ざんし)
言葉が育たないなんて言って
ちょっとばかり練習したハーモニクス
なんて言う名前だっけな
鵬程万里(ほうていばんり)の記憶でもなくって
驢鳴狗吼(ろめいくばい)膏血(こうけつ)でもなくって
雨月(うげつ)に咲く花魁鳥(おいらんどり)
(うす)()のような衍字(えんじ)閑文字(かんもじ)
なんて言う名前だっけな
月落ち(からす)啼いて霜天に満つ
あの声で蜥蜴(とかげ)食らうか時鳥(ほととぎす)
越鳥(えっちょう)南枝(なんし)に巣くい胡馬(こば)北風(ほくふう)(いなな)
違う違うこんなんじゃない
夢を食べるこびとのマーチ
夕顔に舞い落ちるパウダースノー
小細工に濡れた苺キャンディ
無音に息づくソニックとしてのミュージック
アイソレーションになり損ねた不如帰(ほととぎす)
愛とは不調和であり無秩序であり実効支配である
けだし名言でありましょう
恋とは欺瞞(ぎまん)であり烏の鳴き声でありカウントダウンである
けだし名言でありましょう
そんなんでうっかり片づけたりしないで
なんていう名前だったっけ
日本語じゃなくて
詩人の国語辞典に載ってた
うっかりど忘れしちゃったみたいだけど
確かにあったよ
あの子の気持ちとは違う
きみへの気持ちを表す言葉が
借り物でもかまうもんか
オリジナルの言語なんてもはや存在しねえんだ
でも結局思い出せないなら
自分で作ったほうが早かったりして
デマゴーグであるインドクトリネーション
法螺吹(ほらふ)きな野良犬
蟄居(ちっきょ)する黄金虫(こがねむし)
紅緋(べにひ)の憩いと群青(ぐんじょう)のざわめき
散る花びらが思い出す記憶
新緑の摂理に反抗した青春
きみが隠れちゃったのは夏でした
()(ぼし)が雲で見えない冬の空
巡り巡る一歳(ひととせ)
そこに
ふっと光る
たったひとときの
欠如の充足
明日には
もう足りなくなってる
それでもいい
烏兎匆々(うとそうそう)旧懐(きゅうかい)
千紫万紅(せんしばんこう)蓋然性(がいぜんせい)
出口も入り口もないのに迷子
烏有(うゆう)に帰すばかりの純情
きみが光
勘弁してよ会者定離(えしゃじょうり)
悪くないよ渾然一体
膾炙(かいしゃ)しないでよ
煙雨(えんう)を流行らせないで
(きゃん)なストロベリージャム
君という色鳥
曙光に呆然としてしまって
うっかりとそれが
愛と呼ばれるものであることを忘れる
うっかりしてしまったまま
それを思い出す機会を失う
きみという色鳥
きみが光
曙光に呆然としてしまって
うっかりとそれが
愛と呼ばれるものであることを忘れる
陽は沈み
また浮かぶのだけれど
呆然としてしまったばかりに
それが愛と呼ばれるものだと思い出せなくなる



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