ワルツ



これが生命の舞曲(ぶきょく)だと言うなら
僕はどんなに無様(ぶざま)で滑稽で無惨であったことだろう
しかし僕は幸運に浴することができていたのだ
どうあれ踊れたのだから
そして呪うことができたのだから

今さら否定しようにも
殺しと自死を賛美して
流れる血を至高の美術品のように思い
そして僕は実際に
かの姫君にラブレターを手渡した
それは詩の形をして
彼女が流す血がいかに崇高であるかを讃えていた
今さらそれを否定して何になるのか

愛ばかりを歌えない
それをするには裏切られすぎた
歓喜ばかりを歌えない
布団の深海に()もっていたあの日々が(かせ)になっている
絶望ばかりを歌えない
僕は鮮血のヒロインと手を結んだのだから
怨嗟(えんさ)ばかりを歌えない
優しかった
優しかったよ
僕は幸せに過ぎる

さあ踊ろう
生命の賛歌であり惨禍である終わらないワルツ
どれだけの人を呑み込み続けてきたのか
どれだけの悦びを紡いできたのか
どれだけの救いをもたらし
どれだけの嘆きを生んだのか
生命の渦は三拍子
乗り遅れたら痛い目をみる
ほら気をつけて
共に踊ろう
生命の賛歌であり惨禍である終わらないワルツ
手を繋いで
人と人が
僕らが
騙し合い
愛し合い
傷つけ合い
認め合い
裏切って
満たして
見捨てて
信じて
殺して
生かして
人と人が
手を繋いで
さあ踊ろう
僕らの繁栄であり反映である生命のワルツ
きみと僕で喜びを生み出したい
それがどんな過ちとなろうとも

結局自分が一番不幸だと思う生き物で
なんだかなぁって思って
気楽なもん
結局本人の感覚に尽きるわけだから
ドーパミンの分泌量で禍福(かふく)が計れるわけでなし
不幸な善人
幸福な悪人
どちらになりきれるわけでなく

「明日死のう」って思い続けてサバイバルして
「死にたい」って呟きながら電車に乗り続けて
『カーテンレールが壊れた!失敗だー!』ってメールを受け取り
次には成功したからもうメールは来なかった
「明日死のう」って思い続けてサバイバルして
「死にたい」って呟きながら電車に乗り続けて
おかしいな
あんなに助けてもらっておきながら
肝心(かんじん)な時に役に立てないなんて
止めることもできなければ
1回で完璧に成功させてやることもできないなんて
すっかり三拍子であることを忘れて
足はたどたどしく
止まらない舞曲
もっと踊って
手を取り合って
もっと踊って
誰と?

『カーテンレールが壊れた!失敗だー!』

さあ踊ろう
生命の賛歌であり惨禍である終わらないワルツ
僕ときみの繁栄であり反映である彩りのワルツ
憧憬であり滑稽である眩しい光の粒子に包まれて
さあ踊ろう
呪いと祝いの三拍子
どこまでもどこまでも続く
たとえ誰がどこで振り落とされても回っていく
そうやって続いてきたワルツ
もっと踊って
手を取り合って
死ぬのは難しい
殺すのはたわいない
気をつけて
さあ踊ろう
乗り遅れたら痛い目をみる
優しさに満ちた手で握って
裏切りの握力で返すから
傷だらけの手首を(さら)して
うっかり抱擁(ほうよう)しちゃうから
善人のつもりはない
悪人のつもりもない
これはワルツ
ただひたすらに続く生命の賛歌
曲になぶられて
さあ踊りましょう
これはワルツ
無垢(むく)なる惨禍が輝く舞曲
三拍子だってことを忘れないで
手を貸して
ワルツの何もかもを受け入れて
足を踏み出すことが
もしそれが全てではないのなら



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