残酷な世界で神になりたい



残酷な世界で神になりたい
そしてきみを生き返らせる
それが
きみをどれだけ苦しめるかわかっているけれど
きみの残酷な神になりたい
きみはもう死んではいけない
ありったけの慈愛で
きみを縛るよ
それがきみの罰だよ
僕の罪だよ

残酷な世界で生きていたい
僕たちが生きていくことに
せめてもの価値を求めるなら
血にぬらしたタオルに答えを求められて
ささやかな(かい)を捧げたいから
きみが死んでしまったことを
いつまでもやるせなく思いたいから
世界よ
無情であれ
酷薄(こくはく)であれ
暴虐で苛烈(かれつ)で冷酷であれ
いつまでも残酷なまま
僕らを(なぶ)って回り続けろ
僕らはまだなんとか生きてる
勲章のひとつももらえるってもんだ
けれどそれは
最後まで闘っていた彼女に与えたい
彼女は負けた
この世界に敗れた
けれど
闘っていたからこそ負けた
それだけのこと
世界は斟酌(しんしゃく)しちゃくれないこと
それでいい
僕らを嬲って回り続けろ
闘う相手がいなくなって困るのは僕だ
捧げる花を買うために

今日の空は青いよ
ここに自由があると見せかけているよ
あるいは本当に自由なのかもしれないけれど
僕はきみから解き放たれたくない
青い空と迫る春に
居ずまいの悪さを覚えながら
静かにナイフを研ぐ
真実なんて知ったことじゃない

残酷な世界で神になっても
たぶん結局
きみを生き返らせることはない
痛みと憎悪と暗雲、不安、怯懦(きょうだ)、絶望
きみに分けてやる持ち合わせがない
僕は僕をこの世に縛り付けるのに精一杯で
なんも分けてやれないんだ
希望があればいくらでも渡すけれど
絶望を食い物にしてる僕たちだから
手ぶらで生き返らせるわけにはいかないよ
そうだろ?

残酷な世界で神になって
命の水音を聞く
ほら
絶望に満ちた魂が
他のどれよりも
美しく鳴る



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