Nowhere near good enough



溜め込んだら出す
たったそれだけのこと
そんな当たり前のことができない
我ながら呆れる
やり方など学んじゃいないが
でも鳥は飛ぶ
そんな当たり前のことができない

崩れる沈む
自己の禍福(かふく)は自己の比較級でのみ判断される
絶対値をみればたいしたことはない
なごやかな日々だ
けれどどうにも
時雨心地(しぐれごこち)がぬぐえないよ

いつかの再現のようでいて
全く違う気もする
細かいところまでいちいち覚えちゃいない
ただでもけれど
身動きの仕方がわからない
それはたぶん変わっていない
呼吸の仕方は覚えている
それは間違いなく同じ
絶えぬ呼吸にある種の憎らしさを覚えるのも
なんとも傲慢に感じられて
やっぱりむしろ息を止めたくなる
首を絞められたら
全力で抵抗するだろうのに
傲慢のうえに傲慢を重ね
自己嫌悪に陥るのが何よりも罪

横たわって携帯で歌を聞く
自分から目をそらすようにして
それはむしろ歓迎すべきこと
今の気分に合う曲が足りない
手に入れようにも具合のいい曲が思い浮かばない
あれだけライブラリとして曲を溜め込んでおきながら
肝心(かんじん)な時に出てこない

溜め込んだら出す
そんな当たり前のこと
ただでもけれど
それができない
置く場所も活かす場所も捨てる場所も見あたらない
ただ溜まっていくばかり

ここがいいんだと
家にいるのが一番で
それに()くものはないと
僕がそう思うのと同様に
出て行きたくはないらしい

ああなるほど
それなら仕方ないなあ

いつの間にか朝が来て
ベランダに煙草を吸いに行く
灰皿はもういっぱいで
煙草を無理に押し込む
フィルターがねじれて悲鳴をあげる



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