Lost Garden Called Lonesome



その庭園には
いくつもの複雑な感情が絡み合い混ざり合い
渾然の混沌
咲き乱れていたのは
息を呑むほど美しい奇形の花たち
混迷の調和
失われてしまったその庭園は
孤独と呼ばれていました

少年が求めていたのは
決してその庭園を失うことではありませんでした
奇形の花に養分を吸われ衰弱しながらも
その美しさを
どうしても否定できなかったからです
その庭園に充満する
色とりどりの花の
混じり合い毒にも似た香りに
むせかえるようになることが
どうしても嫌えませんでした
年中咲き続ける奇形の花に抱かれて
少年は安らぎにも近しい気持ちを抱くのでした


それは安らぎそのものです

けれどその安らぎを
少年は永住の地とはできませんでした
なぜなら彼は弱かったのです
全ての人間と同じように
奇形の花とは正反対に

奇形の花に心のどこかで脅えていたのです
朝露の雫が涙に思えたのです
草いきれに心が潰されそうになるのです
草花の囲いから覗く蒼空が妬ましかったのです
何より
どうしても奇形の花を隣人と思えなかったのです
それが何よりも美しいものであると確信しながらも

少年は
自分に向かって差し伸べられている手があることに気づきました
それがなんであるかを考える余裕もなく
力の限り握りしめていました

ああ
うしなわれるよろこび

少年が失った処女性は
神聖なものでも何でもありません
そこにあるのは奇形の花ばかり
毒にも似た香りだけ
肺にかびを植えつけるような草いきれ
けれど
何よりも美しい
ただそれだけ
庭園に少年が戻ることは二度とありません
仮にもし
繋げた手の先にある城が
悲しみと呼ばれる場所だとしても

奇形の花は咲き誇ります
失われた庭園の奔放さで
以前よりも禍々(まがまが)しく、強く
もはや誰も知ることのない
名前なき感情の原始的な祈り

奇形の花は咲き誇ります
草花の囲いから空を覗いて爛々(らんらん)
私たちこそが最も命であるのだと
主張してやみません



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