冬の言霊 |
朝の匂いに紛れて 春の気配がする そうして僕は またひとつ言葉を失った詩人になる 冬は終わる 生きているか そうでないのか 問うのには遅すぎる 気づくには早すぎる また春が来る またひとつ 言えない言葉が増える ああそうさ ジュンの言うとおりだ 月日はただ僕らを臆病にさせるのに役立つだけ こんなふうに借り物の言葉だけで 詩人を気取ってみるのも悪くはないけど 僕はそれをするには飢えすぎている 僕は言いたい 僕だけの言葉で I LOVE YOUを PIECE OF PEACEを そして I AM HERE そして I'M CALLING YOU 繰り返してる 馬鹿みたいに 冬が終わる 言葉が少しずつ減っていく 僕の命とともに 行き違えた理想に ぶち上げてみても 僕らが満たされるわけじゃない もっと啼きそうな言葉で もっと啼きそうな言葉で 痛いよってことと 案外、幸せとも言えるよってこと できればきみにそばにいてほしいけど もっと啼きそうな言葉で ひとりでいいんだ それでかまわないんだ もっともっと啼きそうな言葉で 自分を許す 来年はどうかしれない その言葉がないかもしれない 命が削れていくことと同じように 眠っている猫を揺り起こすことに似ている 明日が今日になったと認めることは ニュートリノの流星群にさらされて そろそろ見えない きみの姿が おぼろげな輪郭だけで どんな言葉で 生を嘆いていたのか もうそれは 失ってしまった言葉だよ 言葉は死んだかもしれない きみは生きているかもしれない どうしようもなく/喘いだ言葉に抱かれて/もう一度冒険をしたくても/生きているのかどうか/もう走りきることができない景色/もう辿り着くことができない気圧/光/冬は静かに気配を消し/春/生きている/まだ生きている/僕らはまだここに生きているんだ/言葉は減る/言うべきことが抜け落ちて/抜け殻の言霊を/きみの受容体で詩に変えて/冬が終わるよ/痛みは変わらずとも/暖かな陽が差すよ/言いたかった言葉を吐き出せないまま/冬が終わるよ/抜け殻の言霊を/きみの受容体で詩に変えて ねえ 僕は 詩人には きっとなれない 嘘をついてる 虚勢を張ってる でも だから 僕の虚言を 受け止めて きみの受容体で 詩に変えて また季節が巡ったら もうその時には言えなくなる言霊を きみの中で 命にしてよ |