煉瓦(れんが)造りの家



煩悩にまみれていることの罰が
会者定離(えしゃじょうり)であるならば
何度の後悔を重ねなければならないだろう
けれど些末(さまつ)なこと

懊悩(おうのう)にひたされている僕の明日が
鵬程万里(ほうていばんり)であったなら
ここまで打ちのめされはしなかった
しがない羽ばたきの仕方だけうまくなった

彷徨(ほうこう)する僕たちの居場所が
手の届くところにあったのなら
こんな紛い物の奇跡はいらなかった
食べられないチェリー

たわいない仕草で愛を語るのにも飽いたし
サボテンのとげを(なだ)めるのにも疲れたよ

届けてよ

咆哮する熱を
ただ少しだけここに届けて
煉瓦の家ならそれなりには壊れない
吹きつける炎が必要なんだ
焼きあげなくちゃ
自由なんて要らない
ただもう少しだけ生きていたいだけの不自由さで
僕たちは僕たちをがんじがらめにする
煉瓦を積み上げていく
ひとつ
ふたつ、みっつ
定員なんか考えちゃいないけど
煉瓦を突き崩すことくらいわけないけど
よっつ、いつつ、むっつ
僕らの非力さで内側から壊すことはかなわない
たったそれだけの不自由さで
煩悩を飼い慣らす
胃が少し弱っている
月が出ている

「明日を待っている?」
そう、明日を待っているんだ
「どうせ向こうからやってくる」
それでも待つしかないから
今の姿がわからないから
昔の面影しか浮かんでこないから
「言葉とは裏腹に、昨日ばかり見ている」
昨日は待てない
「戻ろうとしている」
それができたら明日は待たない
「何もしなくたって明日は来る」
そのことすらわからなくて
要らない血を流した
今さらどうやって
積み上げた煉瓦を壊せるものか
「たわいなく、易々(やすやす)とできることさ」
「明日を生きるつもりが、本当にあるのなら」
そんな当たり前のことさえわからなかった
昨日は待てない
煉瓦を積み上げて
明日を待つばかりだ
何もかもに気づきながらも
明日を待つばかりだ
「明日がもし来なかったとして」
いつかその日が来ることは自明で
「どっちにしろ同じことだ」
「その時は」
「もう明日を待つ必要はないんだ」
「お前の積み上げたがらくたは」
「何の意味もない連なりで」
「その赤い塗料はなんだ?」
煉瓦を積み上げて
信じるのはまぼろし
僕たちが円環を成したという
たったそれだけの証明を
その数式を
いまだに連ねているし
これからも(つづ)っていくよ
昨日は待てない
そんな少しだけの真理を振りかざして
きみへのメッセージを紡ぐ



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