小さな迫撃



音符と質量がぶつかって壊れるギリギリのところ
イヤフォンが震わす小さな迫撃
涙しているか なにゆえ
壊れてゆくか いつから
戻らないのか どこまで
去りゆくのか どこから
崩れていくか どうして
戻れないのか どこまで
死にたいのか そうだね
イヤフォンの問いかけはピンポイントの爆撃で
僕はずるずると現実から零れていく
取り損なったのは僕の方じゃない
取り損なわれたのが僕で
何を恨むでもない
石を投げれば当たるよ
おっと
イヤフォンが撃ち損なった
生きていたい僕
まるで嘘にされちまうんだな
笑うこともろくにできねぇや
知らん顔で生きらんねぇってほざけよ
真っ直ぐにくたばれねぇって藻掻(もが)けよ
どっちにしろすぐに冬は来る
銀灰(ぎんかい)に投げ出せば馬鹿らしくもなる
イヤフォンは撃ちやまない

自分の意義をどこかに見出そうとしたところで
0と1で全て成り立ってしまうのなら
天文学的確率の果てに
出鱈目(でたらめ)が真理を説く日が来る
それは明日なのかもしれない
イデオロギーなんて穀潰(ごくつぶ)しは()してしまっても
自我まで捨て置いて生きられるほど
強くも弱くもないんだ
適当にキーを叩いてみなよ
僕がやらなくたって
蓋然性(がいぜんせい)で成り立つ
さあ
適当にキーを叩いてみなよ
言霊(ことだま)なんて信じるのなら
信じられるのなら
少しは違うのかもしれないが
鼓膜を穿(うが)つイヤフォンの迫撃も
いつか起こりうる奇跡の早回し
僕が生きている間に間に合って
よかったよ
よかったね
よかった
少し(さか)しくなりすぎた
お小遣いをしまう財布はどこだったかな
青と紫で
ジッパーがお茶目なピンク
マジックテープじゃダサいだろ?
真理の完成なんて打ち棄てて
恣意(しい)に任せるふりをして
キーを叩く
きみが生きている間に
間に合うように

生きていたいきみを
ただの嘘にはしないって
気取っていたいから

イヤフォンも大概(たいがい)だよ
きみが好きなサーフミュージックを
僕によこしながら
つんと澄ましている
間に合っちまったんだな



BACK                                              TOP