優しいうたが書きたくて



優しいうたが書きたくて
途方にくれる
天気はくもり
蛙の作法は通用しない
泣きたくなることも厭いながら
ただメロディに身をあずけている
すんでのところで失いかけた哀切に
そっと身を寄せる

いのちだからいけないのですか
心ならゆるされましたか

母のぬくもりをもとめてはいけませんか
父のきびしさはこばまねばなりませんか
葉の群れにことばを見ながら
切りすてることは罪なのですか
蛙の作法はここにあっても
うたいかたなど最初からなければよかった

つよさだからきずつくのですか
さびしさなら愛されましたか

優しいうたが書きたくて
途方にくれる
それが希望だったとして
涙は拭けない
あなたに愛を見たとしても
泣きたくなることも厭いながら
ただメロディに身をあずけている
滴りは不意にこぼれる

あなたを信じてはいけませんか
うたぐることを捨てたときに
何もかもゆるされなくなるのですか
いのちの汚さをこばむ僕は
やはり汚いのでしょうか
うたいかたなど忘れてしまいたいのです

いのりではなく
抱くことだけをこたえにしたいのです

アコーディオンドアがひらいた時に
あなたの肌を見ることが
たとえ浅ましさであっても
おろかしさにたゆたいながらも
ゆれていたくて

ただしさなど捨ててしまいたいのです
ただ触れるぬくもりを
優しさなのだと
きめつけてはいけないのでしょうか

めぐる思いは
ひとつにまとめなければいけませんか
愛はあなたにしかありません
今日のただしさを
明日のあやまちにしてはいけませんか
愛はあなたにしかありません

優しいうたが書きたくて
途方にくれる
ふるえる指をいつくしみながら
たばこを吸って
ひとのおろかしさを呪って
いのちを嘆いて
うたいかたを忘れて
ゆれていたくて

蛙の作法で
書きつらねていけば
全てがことばになってしまう



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