きもちわるい熊が歩いてくる
やんわりとした通行止めをくらう
横浜行きの電車を待つホーム
最高級のマスカルポーネをかけてみる

安いチーズじゃだめだ、マスカルポーネじゃなくちゃあ

居並ぶ人、人、人
吐き気がする
おとといは希望を持てていた気がする
プレイヤーから流れるごみくずの音楽

ふらつく足で、何もかもをおし並べて、その値打ちを比べてみる

でもそれ
どうだっていいことだった

マスカルポーネをちゃんと使ったティラミスをください

渋谷行きの電車が行き過ぎる

もう正常なフリをしたくない
もう健全なフリをしたくない
もう真っ当なフリをしたくない
もう優しいフリをしたくない
もう愛するフリをしたくない

横浜行きの電車を待つホーム
東京行きの電車が駆けて来る

走ってくる電車を止めてみたくて仕方ない
何千人の足を止めてみたくて

もう正しいフリなどしたくない
もう慈しむフリなどしたくない

もう弱ったフリなどしたくない
もうさ迷うフリなどしたくない
もう傷つくフリなどしたくない

走ってくる電車を止めてみたくて

もう嫌だ

もうごまかしは嫌だ
もう恋するのは嫌だ
もう馴れ合いは嫌だ

もう打算は嫌だ
もう規範は嫌だ

もう嫌だ

私からこみあげてくる生きようとする意志が嫌だ

人にあふれた駅のホーム

けれど
あなたはいない

電車がやって来て
それを止めてみたい私は

私から衝動を奪う
生きようとする意志がとめどなくあふれて

そして電車がやって来る

ベルが鳴るよ

ベルが鳴る