蝉がうるさい



睡眠導入剤を2錠飲み下し
煙草を吸う
緑茶を酒の如く鯨飲して
床につく

いつもの流れ
眠れるかどうかはわからない
寝たとしても
仕事の夢でうなされたりする
まったくその蓋然性は無視できない

けれど
たいしたことじゃないさ
いくらメジャートランキライザーをもらっているからと言って

もっと嘆くべきやつはごまんといるし
(別に僕は嘆いちゃいないし)
もっと眠れないやつなんて山ほどいる
もっと眠れるやつはきっとその倍以上いる
僕自身をボーダーにすること自体間違ってる

これもナチュラルローってやつの一部だ
不条理だなんて偉そうな名前をつけなくてもいい

‥‥‥‥‥‥

「旅ゆかばウサギに抜かれ亀となる先ゆくウサギ鷹に食われる」

‥‥‥‥‥‥

 三毛猫は光芒を背にやって来た。
 肩には色鳥が止まっていた。
「だからなんだ。」
 蛙氏は怖じない。
「お前に威厳など皆無だ。」
「烏有だ。」
「いずくんぞあらんや。」
 蛙氏は同じ意味のことを三回繰り返した。
 その時すでに蛙氏の肌からは湿り気が失われつつあったのかもしれない。
 三毛猫の体毛は平原の草のように、清らかにそよいでいた。
 三毛猫は口を開いた。牙が覗いた。
「お前は自分がデマゴーグであることをわかっているか?」
 痛いところを突かれたわけではないだろう。
 ただ、蛙氏の肌は乾きはじめていたのだ。
「ハイル! ハイル! ハイル!」
「ハイル! ハイル! ハイル!」
「ハイル! ハイル! ハイル!」
 三毛猫の背から差す光芒は、もはや太陽の光輪にも見えていた。
 プロミネンスが、すっかり蛙氏を乾燥させ、蛙氏は視界を封じられつつあった。
 見えぬ中で、抑揚のない声だけが聞こえた。
「お前は自分がデマゴーグであることをわかっているか?」
 これこそがインドクトリネーションであると、蛙氏は確信した。
 光に飲まれる中で、蛙氏はひとつだけ聞いてみたいことがあった。
「神は神を導くのか?」

‥‥‥‥‥‥

「蝉噪に教わることは唯一つ死はここに有り死は我に有り」

‥‥‥‥‥‥

もし君が死んじまったら
僕は黙って明日を過ごすよ
それが一番辛いから



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