マリー



マリーは頭がよわい

『見つからないの
 古ぼけた記憶媒体
 使い勝手の悪いシステム
 大切な大切な大切な大切な大切な大切なものがひとつどこにもないの
 ジェシカは言うのよ
 あら、それ、大事なネジが一本足りないんじゃない?って
 失礼しちゃうでしょ?
 見つからないの
 私の大切なもの
 いったいどこにあるの
 きっと古い機体だからいけないんだわ
 見つからないの』

マリーは頭がよわい
マリーはいつも何かを探している

マリーの好物は紅玉をつかったアップルパイなのだけれど
この間はそれすらも忘れてしまった
「これなに」って
そりゃあないだろうマリー

けれどマリーは余計なことは覚えている
ジェシカがヘッジファンドとは何かと聞いてきた時も
僕はおもしろがって「ミラノにあるサッカーチームのスター選手だ」って言ったのに
マリー曰く「それは違うよ」
ジェシカみたいにあんたまた何を馬鹿なこと言ってんのぐらい言ってくれてもいいだろう

曰く 投資の リスクが 金融派生商品で 売買の G7が 通貨危機と
それは日本語かい? マリー

マリーが探し物を探すための道すじはいつも同じ
それは毎日の散歩コースさながらだ

マリーは質問を鳥に投げかける
「私の大切なもの、どこにあるの?」
鳥は静かに歌声を披露する
マリー曰く、あなたが探してるのはこれ、このアタシの歌声よ
と、鳥はそう言っているのだそうだ
「失礼しちゃうわ。もう二度と鳥なんかに聞かない」
マリーは言うけれど
そのセリフだって今日だけでもう2度目だよ?

マリーの探している物は哲学だったり、3時のおやつだったりする
マリーの欲している物は答えだったり、麗らかな午後だったりする

マリーは頭がよわい
けれどもそのウェーブのかかったブロンドは綺麗極まりない
けれどもマリーはいつでも石けんでしか髪を洗いたがらない
それでもマリーの髪は綺麗で、蒼く澄んだ瞳にとても映える
でも実はマリーの目はとても悪く、知った道でも迷子になる
そんな時マリーは、鳥たちと仲良くなって道を教えてもらう
そういうマリーに僕は、人形みたいだね、と言うのだけれど
当のマリーは背が低いとけなされたと思うらしく、怒るのだ

マリーはいつも何かを探している
それは哲学だったり、自分の年齢だったりして
だから僕は密かに
そんなマリーに、少し安心する



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