散文詩 ii



カロリーを気にするはずの一番合戦さんところの奥さんがポテトのLサイズを2つもたいらげていた。
僕は目を疑った。
一番合戦さんところの奥さんはさらに3つ目を食べようとしている。これは現実か?

「離婚するの。」奥さんは言った。
「だからって自棄にならなくても。」僕は優しく諭すように言った。「次の出会いがありますよ。」我ながらそれはうわべだけのように聞こえた。
「いいの。」奥さんは力なく首を横に振った。「次に付き合う人はきっとデブ専なんだわ。わたしには分かるの。」「もう新しいお相手がいるんですか?」「ううん。ただの予言。」
店の外ではフクロウがホウホウと鳴いていた。
テーブルにこぼれたポテトに小さなハエがとまった。一番合戦さんところの奥さんはそれに気づかずにそのまま食べた。
「それなら、」僕は反射的に口にしていた。「僕と浮気してくれませんか?」
奥さんは目をぱちくりとさせたが、拒絶しているふうではなかった。
「どうせなら、離婚届を出してからにしたら? そうしたら浮気じゃなくなるわ。」
「そうですね。」僕は頷いた。
けれども僕は、人妻であるうちにお手合わせ願いたかったのだ。

どこに行こうかといくらかは悩んだが、結局、手近だという理由で東西南北さんの経営する安いラブホテルに休憩で入った。
安物のドアは音を遮断しきれずに、ベッドで待つ僕には、奥さんがトイレで小便をする音が聞こえた。
奥さんはそうやって悲しみを吐き捨てているのかもしれないと思った。
ひと眠りして起きると、奥さんが僕に覆い被さっていた。

フクロウの鳴き声が聞こえた。

「ひい、ひい。」奥さんは乱れた。「あはあ、ひい、ひぐう。」
「ひい、ううっ。」
「あうっ。はあうっ。」
「うぐうっ。ひい。」
結局どんな涙でごまかしたところで僕らは人間でしかないのだった。
腰を突き動かすくらいしか能がないのだ。
「ひい。ぎゃあっ。」
「うあっ。ひい。ぎゃあ。」
それはフクロウの鳴き声に似ていた。

「むなしくないですか?」僕たちは息をきらしながらベッドに横たわる。うす汚れた天井を仰ぎながら、訊ねた。
「何が?」
「こうして、性器を摺り合わせるしか能がないことがですよ。」
「気持ち良かったわよ。」
「そういうことを聞いてるんじゃないですよ。」
「次はお尻の穴にする?」奥さんは笑って言った。
「そういう問題じゃないですよ。」
けれど僕はそれ以上その話題を続けなかった。
奥さんを抱きかかえて、2回戦を始めた。

ホテルから出ると、建物のそばに救急車が止まっていた。近くで東西南北さんが慌てている。ホテルの客に急病人が出たのだろうか。
「誰かが死にそうだってのに、交尾するしか能がないなんて。」
「次はお尻の穴にしましょうね。」
「そうですね。」僕は頷いた。
「能が、ないなあ。」
僕は呟いたが、奥さんと繋いだ手を離す気にはなれなかった。



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