雨の日に彼と無駄話



雨がざあざあ降っていたのでミスター・ブラックバーンに電話をかけてみた
こういう日は彼は決まって鬱になっている
けれど布団にこもって減っていく行動力と反比例して饒舌になる
「もうボクは嫌なんだよ そう ありていに言うなら"嫌"なんだ」
「獲得と喪失に消費し摩耗し すり減らして 一喜一憂して」
雨がざあざあ
「ボクはもうすっかり耐久力とか善意とかいうものをね そう 空っぽでね」
彼は万年床に伏せっているに違いない 病気でもないのに
「ああ、中学生と付き合いたいなあ」
別にロリコン談議が聞きたいわけじゃあない
それにこの前 疲れたという理由でその中学生をふったのはきみじゃあないか
「そう ボクがふった」
ロリコン談議を聞くために電話代を払っているわけではないので話を変えた

雨がざあざあとふって
窓のサッシを縦に蜘蛛が滑り落ちていく

僕らはこんな時
雨と一緒に自分が奈落に滑っていく気分に囚われる
ゆるやかなカーブで
滑らかで掴むところがないので抗えず

「僕らはどうしてこんなに苦しんでいるんだろうね?」

僕らは無力だ
そして雨は優しい
蜘蛛が巣をつくる

「一番の問題はね 僕らが幸福というものを 信じきってしまっていることなんだ」

こういう時
ミスター・ブラックバーンはまるでどこか別の宇宙にいるような気がする
まるでそれじゃあおまえ まるで他人事みたいじゃあないか
「そうでもないよ」
そうかい?
「さらに重要な問題は ボクが一昨日会社を首になったってことだ」

「ボクは毎朝のチキンラーメンのために 新しい職を探さなければならないのさ」


そして僕はミスター・ブラックバーンのために
戸棚を物色して宅配便で送るためのインスタント食品を物色する
いくらか余っていたはずで
僕はインスタントは余り食べないし 彼はインスタントしか調理できない


蜘蛛の巣が完成していた
ぶち壊した



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