ロヴィッサ



ロヴィッサの弾くピアノの音色が耳に残っている
この薄汚い街にいる意義をひとつ教えてくれる
黎明を下敷きにラストシーンを描くメロディ
明日ではなく
今日というラストシーン

今度は誰かとともに聞いてみようか
マリーを連れてきたならば
独特な言い回しで感想を述べてくれるだろう
宝物を披露するように
ジェシカとともに聞いたなら
最大級の賛辞として何も言わないだろう
言葉にすれば陳腐になるとして

ロヴィッサの弾く音色は
この薄汚れた街の
うらぶれたバーでだけ聞ける
なぜあの店を選んだのか
教えてくれたことはない
勝手に想像するところでは
ロヴィッサは
幸せな者をさらに幸せにしてやるために
弾く気にはなれなかったのではないだろうか

ロヴィッサは痛みのありかを知っている
ロヴィッサは悲しみの意義を知っている
ロヴィッサはひどく口べただから言葉にはならないけれど
ピアノが語ってくれる
それを聞くことの
なんと心地いいことか
ロヴィッサのメロディにあるのは
ロヴィッサの優しさだ

夏の夜空を見上げながら煙草の煙を吐き出した
ロヴィッサのメロディはまだ耳に残っている
太陽ほどには暑くなく
月光よりは眩しい
柔らかな旋律

薄汚い街の
うらぶれたバーで
音色とともに
消えない罪を許し合う
過ちのように並んだ音符を
ふたつみっつ持ち帰ってみれば
明日を今日にすることが
少しばかり楽しくなる



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